九五式軍刀は、日本陸軍の下士官兵の帯刀本分者(騎兵や憲兵など、軍刀を佩用することが規定されている者)が使用した官給軍刀です。
私は、実物の九五式軍刀は持っていませんが、PKミリタリア製のレプリカを持っています。レプリカとはいえ結構高価で、屋外のゲームに佩用したりしていたところ、鞘が傷だらけになってしまいました。
鞘のカバーがあったらいいのにと、ずっと思っていたのですが、一次史料を調べていたところ、鞘カバーが存在していたことがわかりました。
「九五式軍刀仮制式制定の件」1に鞘カバーに関する記述があります。この史料の中で、鞘カバーは𩋡嚢と記載されています。𩋡が鞘を指します。史料1ページ目に曰く「追て軍需審議会会長報告に基づき𩋡嚢は本制式より削除相成りたく申し添ふ」と。
誠に残念ですが、鞘カバーが存在したのは仮制式までで、本制式の際には削除されてしまっていました。そのため、実際に兵士に支給されることはなかったようです。
𩋡嚢とはどんなものだったのか、史料からわかる範囲で調べました。
- 仕様
- 「パラフィン」防水綿布帯青茶褐色染
- 𩋡嚢制定の目的
- 𩋡の塗料に関しては、各種の塗料について研究したが、耐久性が十分ではなかった。帯青茶褐色染め「パラフィン」防水綿布製の𩋡嚢を作成し、𩋡を防護するとともに光輝が発生するのを防ぐ。
帯青茶褐色というのは、鞘に指定されている塗料と同じ色で、すなわち、鞘と同じ色の綿布でカバーを作成したようです。ただ、これ以外に全く情報がありません。
仮制式の史料を呼んでいくと、鞘本体の作りなどは将校用と似せたものにするようにと書いてありましたので、鞘カバーも将校用の物などを参考に作ってみることとしました。
パラフィン防水布の入手が難しかったため、鞘と同系色の帆布を使用しています。もしかすると、全て綿布でできていたかもしれませんが、先端は強度を確保するために革製としました。先端まで綿布とすると、簡単に穴が空くような気がします。
製作の過程も少し掲載します。帆布製の本体の部分は、単なる真っすぐな筒ではなく、鞘の形状に合わせて微妙な曲線を描くように工夫しています。鞘に被せた時にガバガバだと格好がつかないので、ぴったりサイズになるよう調整しているのですが、おかげで、3本に1本くらい縫い上げるのに失敗して、鞘が入らない不良品がでます。
現物合わせで微調整をしながら組み上げていますので、PKミリタリア製のレプリカ以外にきちんと装着できるか自信がありません。なかなか良くできているレプリカだとは聞くのですが。
ということで、九五式軍刀の鞘カバーの作成でした。本制式で採用されなかったため、実際には使用されなかった幻の装備です。ですが、鞘の保護の観点から、結構需要があるのではないかなと思います。
1本ずつ手作りをしているため大量製作はできませんが、ぼちぼちとヤフオクに出品していきます。気になる方はよろしくお願いいたします。
脚注
- 「九五式軍刀仮制式制定の件」JACAR(アジア歴史資料センター)Ref.C01001386400、永存書類甲輯 第5類 第1冊 昭和11年(防衛省防衛研究所) ↩︎