九八式防暑帽

  • 投稿の最終変更日:2025年11月17日
  • 投稿カテゴリー:被服 / 装備
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防暑帽は、特殊地方用被服の熱地被服に分類されており、その陸軍被服品仕様聚1によると昭和13年3月に制定され、昭和13年7月、昭和16年9月、昭和18年5月と改正されています。

防暑帽は、昭和5年(皇紀2590年)に金属星章で通気孔つきのものが制定2され、続いて昭和16年(皇紀2601年)には織出星章で通気孔のないものが制定3されています。
ところが、制式の制定年は少なくとも昭和5年であるにもかかわらず、「九八式防暑帽」と呼ばれているのは不思議でした。当時の一次史料にも「防暑帽(九八式)」という記載が見られるため、戦後の俗称というわけでもありません。
陸軍被服品仕様聚には、「防暑帽(九八式)仕様書」の制定が昭和13年(皇紀2598年)と記されていることから、織出星章で通気孔のないタイプの防暑帽を「九八式」と呼んでいたのではないかと考えています。

また、仕様書の目次4のみで本文を見つけることができなかったのですが、防暑帽には以下のような5つの種類があったようです。

  • 防暑帽(ロ号)
  • 防暑帽(林投製)
  • 簡易防暑帽
  • 試製防暑帽(乙)
  • 簡易防暑帽(乙)竹眞製

防暑帽については、以前の記事でも取り上げていますので、そちらもあわせてご覧ください。

今回は、様々な仕様の実物防暑帽を比較していきたいと思います。

昭和16年製 満581

頭頂部と両側に通気孔が付いている極初期型の防暑帽。頭頂部の通気孔の生地が無くなって金属が露出していたり、顎紐が切れてしまっているが、このタイプの防暑帽は非常に少ないため価値が高い。

正面には軍帽と同じタイプの金属製の星章が取り付けられていたはずだが、取り外されてしまっている。終戦時に多くの防暑帽が星章を取り外して放出されたらしく、オリジナルの星章が残っているものは特に貴重。

なお、頭頂部の通気孔だけで、両側の通気孔が廃止されているタイプも存在する。

昭和18年製 陸軍被服本廠

オリジナルの星章が欠けていた以外はほぼ完璧な防暑帽。未使用に近い状況。星章は、実物の織出星章のデッドストック品を仕様書を参考に加工して取り付けた。

防暑帽の前がわかるように書いてある「前」の漢字も、ちゃんと仕様書でサイズが指定されている。

検定印難読

やや使い込まれた外観であるが、オリジナルの織出星章が残っている。帽体の縫い目に沿って星章が擦れており、紛れもない実物の星章である。

内装の紐も全て揃っており完品である。製造場所や年代の検定印がないため、詳細は不明。

昭和18年 広島陸軍被服支廠

内側が麦わら帽子のままになっているタイプ。星章もオリジナルの織出星章で、使用感がないのでデッドストック品ではないかと思われる。末期だから内側に布が貼っていないというわけではなく、昭和16年頃でも同様のタイプが製造されていた模様。

内装のループのところをよく見ると、赤インクで取り付け位置が指示されている。これも当時付けられたもので、古鷹氏によるとこの印に合わせて内装を縫い付けるという内職が昭和16年頃の「主婦の友」の記事に載っていたらしい。

脚注

  1. 陸軍被服品仕様聚 上巻/第1編 成品被服/第4款 特殊地方用被服」JACAR(アジア歴史資料センター)Ref.C14010251200、陸軍被服品仕様集追録(第3回) 昭和18.5~8(防衛省防衛研究所) ↩︎
  2. 被服、装具の制式規定の件」JACAR(アジア歴史資料センター)Ref.C01001143600、永存書類甲輯第1類 昭和5年(防衛省防衛研究所) ↩︎
  3. 昭和5年陸達第8号中下の通改正す」JACAR(アジア歴史資料センター)Ref.C01005254100、昭和16年7月以降 「陸普(支満亜)密綴 第9951部隊」(防衛省防衛研究所) ↩︎
  4. 目次「陸軍被服品仕様集 下巻 昭和17年10月」」JACAR(アジア歴史資料センター)Ref.C14010283100、陸軍被服品仕様集 下巻 昭和17.10(防衛省防衛研究所) ↩︎