昭和4年の「特殊地方用被服制式に関する件」1によって、大正時代までにあった防寒被服、熱地被服、防蚊、防塵などの装備が特殊地方用被服として統合されました。防寒被服に関しては、それまで酷寒地用、亜寒地用などの区分がありましたが、これは給与上の問題であるとして区分が廃止されています。この史料の中にそれぞれの図面が掲載されており、これが昭和期の特殊被服に関する仕様の原型になっていると思われます。
今回紹介する防寒外套は、真綿や毛皮が使用されている酷寒地用の被服です。現代のように軽くて暖かい素材はありませんから、とことん分厚く作ってあり、小号でも3.5kgの重さがあります。
防寒被服については、2025年現在、レプリカがほとんど存在していないため、揃える場合は基本的に実物を探すしかありません。近年では『ゴールデンカムイ』の影響で、明治型の防寒胴着が流通している程度です。
昭和18年製 大阪陸軍被服支廠 小号
まずは外観から。こちらは人工毛皮の短毛仕様です。背中には2個のフックが付いていて、このフックに帯革をかけるようにして締めて、ずり落ちないようにします。
襟周りを見ていくと、まずホックが取り付けられているのが確認できます。ボタンは木製です。
左襟に付いている細長い六角形の部品は「面覆」で、襟を立てた際に右襟と連結するためのものです。
また、この防寒被服は両側にボタンとボタンホールを備えたダブル仕様になっています。これは古い軍用コートにしばしば見られる特徴で、風向きに応じて前合わせを切り替えられるようにしたものです。
たとえば、右側から強い風が吹く場合には右前にして着用すると、風の侵入を抑えることができます。
両肩には小さなループが取り付けられており、ここには防寒大手袋の紐を通しておくそうです。
手袋を外した際でも紐でつながっているため、紛失防止として役立つ仕組みですね。
左側には検定印が押されており、「人工毛皮製」の表示があります。
内側はやや黄色味のあるカーキ色で、背中のフックは力がかかる部分のため、非常にしっかりと縫い付けられています。また、裾の先端にはボタンホールが付いており、裾をめくり上げてこのフックにボタンホールを引っかけることで、裾が邪魔にならず足元の動作を妨げないようにできます。
背面の裾も、ボタンを外すことで動きやすくなります。騎乗する場合などには、このボタンを外して使用するのだと思われます。
袖はボタン式で着脱可能になっており、取り外せる袖の方には「小」とサイズ表記がされています。
腰部にはポケットが2つあり、1つは防寒外套用の通常のポケット、もう1つは単なる穴になっていて、下に着ている軍衣のポケットにアクセスできるようになっています。
防寒帽や防寒水筒覆などと合わせて、トルソーに着せてみました。
防寒帽、防寒外套、防寒水筒覆、水筒、雑嚢が実物で、その他はレプリカです。
昭和18年製 陸軍被服本廠 中号
こちらは毛皮の長毛使用です。背面が異なっていて、フックの代わりに剣留が付いています。
このフックと剣留の違いを除けば、他の仕様はもう1着の方とほぼ同じです。
こちらは長毛の毛皮で作られており、肌触りが非常に良いです。
面覆のボタンは木製ですが、前を留める大きなボタンは樹脂製になっています。樹脂製ボタンは一部欠けているものもあり、耐久性の面では木製ボタンの方が優れていそうです。
肩には防寒大手袋の紐を通すためのループがついています。
左側の検定印の横には、「スフ」と押印されています。「スフ」はステープルファイバーの略で、人造繊維を指します。現在でいうところのレーヨンの一種です。内側の生地は濃緑色になっています。
左腰には剣留が付いています。剣留は、形状もサイズも九八式軍衣と同じものです。
背中のフックの代わりにボタンが取り付けられており、裾の先端にあるボタンホールをこれらのボタンに引っかけることで、裾をめくり上げることができます。また、背面の裾のボタンを外すことで広げられるのも同様です。
袖の着脱式も同じですが、こちらはサイズの外に左右の区別も書かれています。確かに、外してしまうとどちらの腕だったかわからなくなりそうです。
腰のポケットの片方が穴になっていて、下に着ている軍衣のポケットに手を入れられるのも同じです。
こちらもトルソーに着せてみました。
防寒帽、防寒外套、防寒水筒覆、水筒、雑嚢が実物で、その他はレプリカです。
剣留について
今回紹介した2着はいずれも昭和18年製ですが、剣留の仕様に違いが見られました。
前述の「特殊地方用被服制式に関する件」に掲載された図では、剣留ではなく両腰にフックを備えた仕様となっています。
一方で、「陸軍被服仕様聚」23を確認すると、昭和18年改正の図面にはフックが廃され、剣留が付けられた仕様が示されています。
つまり、羅紗外套と同様に、フック式から剣留式へと移行していったと考えられます。同じ製造年でありながら新旧仕様が混在している点は、非常に興味深いところです。
脚注
- 「特殊地方用被服制式に関する件」JACAR(アジア歴史資料センター)Ref.C01001082500、永存書類甲輯第1類 昭和4年(防衛省防衛研究所) ↩︎
- 「陸軍被服品仕様聚 下巻/第1編 成品被服/被服品臨時材料調書(2)」JACAR(アジア歴史資料センター)Ref.C14010284500、陸軍被服品仕様集 下巻 昭和17.10(防衛省防衛研究所) ↩︎
- 「陸軍被服品仕様聚(第2回追録) 下巻/第1編 成品被服/第3款 特殊地方用被服」JACAR(アジア歴史資料センター)Ref.C14010288400、陸軍被服品仕様集 追録(第2回) 昭和18.1~4(防衛省防衛研究所) ↩︎









































