九八式夏衣に関する考察

  • 投稿の最終変更日:2024年2月24日
  • 投稿カテゴリー:初心者向け / 被服 / 軍服
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大東亜戦期の日本陸軍の軍装を行う上で必要となる軍服は、主に以下の3種類があります。

  • 昭和5年(1930年)制定 詰襟式の昭五式軍衣袴
  • 昭和13年(1938年、皇紀2598年)制定 折襟式の九八式軍衣袴
  • 昭和18年(1943年、皇紀2603年)制定 三式軍衣袴

この他にも、熱帯地用の防暑衣袴や戦時制定服(決戦服)などのバリエーションも存在しますが、まずは汎用性の広いものについて考察します。

軍衣がジャケット、軍袴がズボンのことで、軍衣袴で上下セットを指します。それぞれ綿製の夏用と羅紗製の冬用があり、九八式夏衣袴や九八式冬衣袴などと呼びます。

軍装趣味を始めるにあたって、まずは夏衣袴から揃えるとよいでしょう。軍装をしてサバイバルゲームなどで身体を動かす場合、真冬でも雪の降る日でもない限り夏衣袴で十分だと思います。冬衣袴は非常に暖かく、少しでも動くとすぐに汗だくになります。私は冬衣袴も持っていますが、正直暑すぎて着たことがありません。

九八式夏衣袴の入手方法については、以下が挙げられます。

実物

実物の九八式夏衣袴を入手するというのは、最も確実で正確な方法ではあります。日本国内に居住している場合は、ヤフオク!等を利用することで、実物を入手することが可能です。海外の方の場合は、eBay等で入手することになるでしょうか。

実物を入手するというのは最も確実な方法ではあるのですが、いくつか注意すべき点があります。

  1. 当時の日本人は現代人に比べて体格が小さいため、自分が着られるサイズかどうか確認するのが難しい
  2. 最近は、骨董品市場に出回る数が減少傾向にあるため、状態の良いものは値段が高くなりつつある
  3. 状態の良い実物を着潰してしまってよいのかという倫理的(?)な問題がある

1に関して、私は身長168cmの瘦せ型なのですが、それでもやはり小さいものが多いです。もっと体格の大きい方だと厳しくなってくると思います。レプリカであれば現代人の体格に合わせて作られていますので、サイズのバリエーションも多くあります。

2に関して、遺品整理等で骨董市場に出てくる軍装品の数が全体的に減ってきているようで、軍衣袴だけでなく、水筒や鉄帽等といったものも価格が上がってきているように感じます。夏衣袴は綿製ですので、虫食いの穴の心配はほとんどないと思いますが、ボタンが金属製の場合、保存方法が悪いとボタンが腐食している場合があります。ボタンの錆が服についてしまっていり、ボタンが朽ちてしまっていて、レプリカ等と交換する必要が出てきたりします。

3に関して、正直その所有者次第というところですので、他人がとやかくいえないことではあります。ただ、私の場合は、史料的価値の高い実物を使い潰してしまうのは勿体ないと感じてしまうため、サバイバルゲームなど派手に汚したり破れたりする可能性があるときには、主にレプリカを使用しています。実物は写真撮影などの時に限定して着用しています。

昭和15年製の3号サイズの九八式夏衣。ポケットには伍長の座布団式襟章が入っていた。ボタンは錆びて変質してしまっていたため、S&Grafのレプリカに交換した。

中田商店

中田商店は、東京上野のアメ横にあるミリタリーショップです。軍装趣味の方には有名なお店で、古くから様々な軍装品のレプリカ等を扱っています。しかしながら、近年は需要の減少などの影響か、多くの商品が在庫切れの状態になっており、購入できるものは限られています。

かつては、御徒町駅の近くにアメ横店と御徒町店の2店舗があり、御徒町店の方に日本軍関係の軍装品が多く陳列されていました。しかし、2020年に御徒町店が閉店になってしまい、アメ横店の方に集約されています。私も、店舗集約後にアメ横店を訪れましたが、店頭には日本軍の軍装品はほとんど陳列されていませんでした。しかし、欲しいものがあれば店員さんに声掛けをすると奥から出してきてくれるとのことでした。

2023年現在、九八式夏衣袴については在庫があるようで、オンラインショップでも購入ができるようです。東京上野まで実際に足を運ぶことが可能な方は、アメ横店で店員さんに出してもらうとよいと思います。

中田商店の九八式夏衣袴の出来ですが、私見ですが80点といったところです。全体の質感やポケットの形状など、よくできています。聞いた話によると、本物として流通してしまわないように、敢えて細部のクオリティを落として作っているという話です。特に、中田商店のレプリカは、最近のロットよりも2000年頃の古い物の方がよくできているといわれますので、ヤフオク!で探してみるのもよいかもしれません。

中田商店の極初期ロットの製品を野狸さんがディテールアップしたもの。襟ホック、ボタン、襟布、襟章、胸章は野狸製。

HIKISHOP

HIKISHOPは、世界各国の第一次世界大戦&第二次世界大戦のレプリカ軍装品を販売しているオンラインショップです。商品の香港から発送されてきますので、拠点はそちらにあるようです。日本軍の軍装品も様々な種類を販売しています。

日本国内では、PKミリタリアでHIKISHOPの商品を取り扱っているので、問い合わせてみるとよいと思います。HIKISHOPは海外からの発送になりますので、送料が高くなります。いくつかの商品をまとめ買いをする場合はHIKISHOPから購入するのがよいですが、数点の購入をする場合はPKミリタリアで購入した方が安くなります。

HIKISHOPの九八式夏衣袴の出来ですが、私見では70点です。雰囲気は悪くありませんがいくつか特徴的な部分があり、詳しい人が見ると「あぁHIKISHOPだな」というのがわかってしまいます。一番目立つは肩のシルエットで、実物は「なで肩」なのですが、HIKISHOPは「いかり肩」になっています。それから、生地の色味が若干青みがかっているのも特徴です。また、襟のホックは右と左が逆についているのですが、これは簡単に修正できますので付けなおしをしましょう。

だからといって、HIKISHOPが全然ダメということはありません。価格も他のレプリカと比較して少々お値打ちですし、サバイバルゲーム等でハードに使用して使い潰すにはちょうど良いと思います。私も、HIKISHOPの九八式は、一着使い潰して二着目を持っています。

HIKISHOPの九八式夏衣袴については、洗濯をすると縮みが大きいです。そのため身体にぴったりのサイズより、やや大きめのサイズを購入することをお勧めします。

HIKISHOPのものは、他と並べて比べてみると肩のシルエットや生地の色味が特徴的。とはいえ、入手のしやすさなどを考えると選択肢としてなくはない。

S&Graf

S&Grafは、世界各国の軍装品のレプリカ等を販売している大阪の会社です。実店舗は、大阪と東京の2か所にあり、私はいつも東京の店舗を利用しています。オンラインショップもあり、日本軍の軍装品も各種購入ができます。南方用装備であるゴム引きの帯革や弾盒のような珍しいものもあったりします。

S&Grafの九八式夏衣袴の出来ですが、正直50点くらい。特に夏衣の方は、いくつか致命的な欠陥があります。生地の質感や全体のシルエットは良いのですが、ポケットや襟の形状などが実物と全然違うのです。

S&Grafの九八式夏衣については、実物から採寸した型紙を使って、自分で細部を修正してみました。その過程についてはこちらの記事で紹介しています。修正した結果、80点くらいにできたと思います。

なお、S&Grafでは九八式夏衣用の金属ボタンのレプリカがばら売りされています。私も、ボタンが朽ちてしまった実物にこのボタンをつけて再生させました。

S&Grafの九八式夏衣は、金属ボタンのものと、ベークライトを模したプラスチックボタンのものと2種類販売されている。写真はプラスチックボタンのもの。高い裁縫スキルがあるなら改造素材として面白いが、中田商店製が入手できるなら敢えて選択肢に入れなくてもよいと思われる。