昭和15~16年頃になると、軍需物資の不足が顕在化し、各種兵器や装備には代用品が使用されるようになります。例えば、こちらの史料1には、各種兵器に用いられる代用品の一覧と、それらを生産する工場の生産能力に関する調査結果が記載されています。
被服に関して言えば、従来使用されてきた金属製ボタンに代わり、ベークライト製や木製などのボタンが用いられるようになりました。今回は、そうした代用ボタンの一部を紹介します。
まずは、ベークライト製のボタンです。
ベークライトはフェノール樹脂と呼ばれる熱硬化性樹脂であり、1872年に発見された世界初の合成樹脂です。一般的なプラスチックが、加熱すると軟化・溶融する熱可塑性樹脂であるのに対し、ベークライトは加熱によって硬化するという特性を持っています。
耐熱性や電気絶縁性に優れていることから、かつては様々な一般消費財にも広く用いられていました。先ほど紹介した陸軍兵器本部の史料においても、各種兵器の部材の一部にベークライトが使用されていることが確認できます。
以下のボタンは、比較的質の良いもので、より古い時代のものと考えられます。
純粋なベークライト樹脂は琥珀色を呈するため、本品は顔料を添加して着色されたものと思われます。
軍衣の前開きを留めるための直径20ミリのボタンで、表面は半光沢を帯びています。
こちらもベークライト製のボタンですが、先ほどのものと比べると品質は劣ります。
表面やエッジは粗く、加工精度も低いことが見て取れます。
内訳は、直径20ミリのボタンが5個、15ミリのボタンが3個で、軍衣1着分に相当する数が揃っています。
これを忠実に再現してレプリカとして販売したら、品質面でクレームを受けてしまいそうです。
こちらは木製のボタンです。目を凝らすと、木目の痕跡や、同心円状に削り出された加工跡が確認できます。
外観に現れる表側は比較的丁寧に仕上げられている一方で、裏面の加工はかなり粗雑です。
表面には、つや消しの金色塗料が施されています。
直径20ミリの軍衣の前を留めるボタンです。
こちらは軍衣用ではなく、第二種作業衣袴などに使用されるボタンです。表面に現れている模様や質感から、竹製であると考えられます。
表面にはニス状の塗料が施されているようで、光沢があり、滑らかな手触りです。
さて、ここからが本題です。これまで代用ボタンを紹介してきたのは、現在、ベークライトボタンのレプリカ製作に取り組んでいるためです。
実の妹と協力し、昭和13年制の防暑衣を製作しているのですが、それに適合するベークライトボタンが入手できず、困っていました。以前はS&Grafで樹脂製ボタンを入手できたものの、いつの間にか商品リストから姿を消してしまいました。現在はHIKISHOPで入手可能ですが、1着分を揃えると送料を除いても5,500円を超えてしまいます。このような価格では、製品として販売する際に現実的な価格設定が難しいと考え、自作を試みることにしました。
そこで、3Dプリンタと3Dスキャナを導入しました。もちろん、このボタンのためだけではなく、他にも製作したいものがあるため、それらも見据えた投資です。1/1スケールでの複製を前提としているため、大型のハイエンドモデルを選択しました。
こちらは、3Dスキャナで実際に取り込んだボタンのデータと、それをもとにCADでトレースして作成した3Dモデルです。CADを扱うのは初めてでしたが、本職がITエンジニアということもあり、習得にそれほど時間はかかりませんでした。
こちらが最初の試作品の数々です。当初は3Dスキャンしたデータをそのまま出力しましたが、表面が粗く実用に耐えなかったため、改めて3Dモデルを作成することにしました。
積層痕が目立たないよう、造形方向を変更したり、モデルを分割したりといった試行の跡です。
どれだけ工夫しても表面の積層痕を完全に消すことはできなかったため、最終的には一つずつ手作業で表面処理を行っています。
リューターやペンサンダーを使い分け、1個あたりおよそ10分ほどかかります。
右が処理済み、左が未処理です。
こちらは、1着分のボタンを3Dプリンタで造形したものです。大型の機種を導入したため、最大で20着分ほどを一度に造形することも可能です。
ただし、その場合は表面処理が地獄と化してしまうため、実際にはまとめてはやりません。
3Dプリンタ特有の積層痕を除去する方法について様々に検討しましたが、最終的には削って研磨する以外に有効な手段はないという結論に至りました。そのため、加工用の治具も設計・製作しています。
あとは、リューターやペンサンダーを用いて、一つずつ地道に削っていく作業となります。
1回目のサーフェイサーを吹いたところ、まだ表面処理が十分とは言えない状態でした。
末期のボタンに見られるような荒れ具合で、むしろ雰囲気が出ているとも言えますが、現代の基準で見れば、品質に対するクレームにつながる可能性もありそうです。
そのため、再度パテ盛りを行い、表面を磨き直すことにしました。
再度研磨を行い、2回目のサーフェイサーを吹いた状態がこちらです。
ビフォー・アフターとして2点を並べていますが、この仕上がりであれば問題なさそうです。
赤茶色に塗装しました。
実物のボタンは光沢のある仕上がりなので、この後さらにクリア塗装を施し、光沢を出していきます。
光沢クリアを吹いた後、さらにコンパウンドで研磨を行いました。
ただし、写真ではその差があまりわかりませんでした。実際の仕上がりとしても、コンパウンドで磨くよりクリアを重ね塗りした方が、より効果があるように感じられました。
外から見えない裏面は、表面処理を省略しています。裏までピカピカに処理して、何十個も作るとか無理です、ごめんなさい。
裏を見れば積層痕でレプリカとすぐに分かるので、これはこれで良いかなと考えています。
現在、妹に製作してもらっている昭和13年制定の防暑衣に、完成したボタンを取り付けてみました。
ひとまず、ボタンは10着分製作する約束をしているため、なかなかの作業量ですが、引き続き進めていく必要があります。
この防暑衣のレプリカも完成が近づいていますので、こちらについても近日中に紹介したいと思います。
脚注
- 「39.兵器代用品製産工場及生産能力等調査表 昭和16年1月 陸軍兵器本部」JACAR(アジア歴史資料センター)Ref.C12121643200、軍需動員に関する綴 昭和14年11月~昭和16年5月(防衛省防衛研究所) ↩︎




























