この装備は九三式夜光歩度計と呼ばれるもので、陸軍で使用された歩数計です。
一般には「万歩計」といったほうが馴染み深いかもしれませんが、「万歩計」は1984年に山佐時計計器株式会社が商標登録した名称です。そのため、厳密には「歩数計」と呼ぶのが正確です。
九三式夜光歩度計は測量器材の一種で、九三式測高計とともに昭和9年陸普第1210号1により制式制定されました。史料によれば、配布先は各師団の兵器部、電信隊、工兵隊などで、支給数は師団あたり1~2個程度にとどまっていたようです。そのため、もともとの配布数自体が少なく、現存数が限られている比較的珍しい器材であると考えられます。
他の史料からの傍証によれば、攻城工兵司令部2や工兵学校3にも配備されていた形跡が確認できます。とりわけ、前述の攻城工兵司令部宛の指令には「陣地攻撃準備偵察用として」との記載が見られます。九三式夜光歩度計は、工兵用器材の一つとして、歩数から距離を算出するために使用されていたものと考えられます。
本装備は、収容嚢と歩度計本体のセットで構成されています。本来、歩度計本体には首から下げるための負革が付属しており、さらに腰などに装着するためと思われるクリップ状の部品も備えられています。ただし、本品ではこれらの部品は欠品しています。
歩度計の本体です。本来は、ケース外周に首掛け用の負革が装着されています。
歩度計本体と革ケースを分離した状態です。裏面のU字型ポケットには、本来クリップ状の部品が収まる構造ですが、本品では欠品しています。形状から判断すると、帯革などに挟んで装着するための部品であった可能性が考えられます。本体上部のリングに引っ掛けたうえで、クリップで帯革に固定する仕組みであったのではないかと推測されます。
本個体は現在も稼働します。右側面のスイッチを切り替えると計測が開始され、本体を振ると現代の歩数計と同様に目盛が1ずつ増加します。また、本体上部のリング軸部には小さなボタンが設けられており、これを押し込むことで目盛をリセットすることができます。
携行用の収容嚢です。蓋裏には、官給品であることを示す検定印がうっすらと確認できます。ベルトループの形状から、縦向きに装着する構造と考えられます。ループ幅は帯革がぎりぎり通るか通らないかといったところです。
脚注
- 「測量器材九三式測高計外1点制式制定の件」JACAR(アジア歴史資料センター)Ref.C01001332700、永存書類甲輯第5類第2冊 昭和9年(防衛省防衛研究所) ↩︎
- 「戦用器材増備に関する件」JACAR(アジア歴史資料センター)Ref.C01006914900、永存書類乙集 第2類 第3冊 昭和12年(防衛省防衛研究所) ↩︎
- 「兵器貸与並特別支給の件」JACAR(アジア歴史資料センター)Ref.C01002154400、永存書類乙集 第2類 第3冊 昭和11年(防衛省防衛研究所) ↩︎
















