九八式防暑帽(後期型)

  • 投稿の最終変更日:2024年11月19日
  • 投稿カテゴリー:被服 / 装備
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今回は、九八式防暑帽の後期型の実物と、HIKISHOPのレプリカの比較です。九八式防暑帽の実物は、稀にヤフオクで見かけますが、大体3万円~5万円程度で取引されています。

九八式防暑帽には、初期型と後期型があります。昭和5年(1930年)に制定1されたものは、金属製の星章が付いており、頭頂部と両側に通気口が付いていました。今回紹介するのは、昭和16年(1941年)に改正2された防暑帽で、黄色の織出星章に変更され、通気口が廃止されています。以下、史料よりの抜粋です。

  • 昭和5年制定
    • 材料
      • 青茶褐防水布
      • 帽体 フエルト又は林桃3
    • 製式
      • 金属製星章を附す
      • 頂部両側及内部等通気口を設く
      • 帽内部に於て大小調節部を附す
  • 昭和16年改正
    • 特殊地方用被服の防暑帽の項中「金属星章を附す」を「黄色織出星章を附す」に改め「頂部通気口を設く」を削る

本稿で紹介する防暑帽は、織出星章で通気口のない形状をしていますので、昭和16年改正のタイプになります。

実物とレプリカの比較

外観比較

まずは、実物とレプリカの比較をしていきたいと思います。以下の写真で左が実物、右がHIKISHOPのレプリカです。

まず色味が異なります。HIKISHOPのレプリカは、九八式夏衣袴や第二種作業衣袴などと同じ生地のように見え、写真に撮ると若干青っぽく映ります。実物は仕様書には青茶褐防水布と書かれており、実物の夏衣と防暑帽を比較すると、防暑帽の方が少しだけ茶色味が強いように見えました。

続いて正面から見た時のシルエットです。実物の方が頭頂部が少し尖っています。

真上から見たところです。実物は真円ですが、レプリカは前後に少し長い楕円です。

顎紐は、レプリカの方が若干分厚く、幅が少し細いです。しかし、隣に並べてじっくり見ないとわからないレベルではあります。

星章の比較です。実物の方は取り外されてしまっており、星章が取り付けられていた糸のみが残っていました。レプリカの方は星が歪んでしまっています。個体差があるのかもしれませんが、この目立つ星章が素人目にも明らかに変だというのが一番ダメなポイントです。

3枚目の写真は実物の織出星章です。実物はこのように歪みはありません。

内装比較

次に、内装を比較します。内側の色は、実物の方が鮮やかな緑色をしています。内側の調節機構は、概ね同じような形状をしています。

外周に沿って、小さなループが3か所付けられていますが、レプリカの方はかなり雑な位置に付けられています。この小さなループの使用法については後半で説明したいと思います。

実物には、前がどちらかわかるように「前」の文字がスタンプで押されています。これについても、後述する史料の中に記載があります。

この実物は昭和18年製です。レプリカも昭和18年をモデルにしています。HIKISHOPの「引納」というのはシャレていますね。

細かいですが、レプリカには「小吉」と書いてあります。きっと「小号」と書きたかったのでしょう。日本語って難しいですね。

防暑帽の使用方法

防暑帽は、中国や南方などの暑い戦場で使用されていました。防暑帽は略帽の代わりとして着用されますが、内装の紐を全て伸ばした状態にして、鉄帽の上に被せたりもしました。鉄帽は、直射日光を受けると熱くなって熱中症などになってしまうため、鉄帽覆を被せたり防暑帽を被せたりすることでそれを防ぎました。

以下は、昭和13年8月『熱地作戦に於ける給養勤務の参考』4からの引用です。引用部は読みやすく口語に直しています。

  • 防暑帽は鉄帽と併用することができる。
    鉄帽は防暑帽と併用しない場合は、なるべく日覆(鉄帽覆)または草樹葉を使って上部を覆い、また行軍中は帽内に青葉や樹草を入れると防暑効果がある。

鉄帽に草木を付けることは、偽装のためだけではなく防暑目的でも推奨されていたようです。

また、昭和16年12月『熱地被服の参考』5には、防暑帽の使用法について詳しく記載されていますので、引用してみます。

  1. 防暑帽は、略帽の代わりに使用するものとする。防暑帽は鉄帽の上に併用することができる。
  2. 防暑帽の現制品は、鉄帽との密着を良好にするため、帽の縁辺に乳紐を付け、帽の褥座6上部の調節紐を抜き取り、これを利用して鉄帽の褥座鐶に結び付けることができるようにしてある。
  3. 防毒面(甲)と併用する場合は、まず防毒面(甲)を着用し、その上に防暑帽を着用するものとする。
  4. 防暑帽は着用するときに前後を間違えやすいので、前面の星章に注意が必要である。現制品では、帽内前面に「前」の印を押してある。
  5. 防暑帽は熱地においての頭部防護上必要不可欠なものであるから、これを濫りに乱用しないように注意が必要である。
  6. 必要に応じて帽垂布を付けると、後頭部の直射光線の防護に効果がある

2番目の項目は非常に興味深い内容です。鉄帽の上に防暑帽を乗せるということは知っていましたが、ただ乗せるだけでは飛んで行ってしまうでしょうから、どうやって固定していたのか謎でした。帽の内装の丸紐を外して、防暑帽にある3つのループと、鉄帽にある3つの金属の環を結んで固定していたようです。

実物の防暑帽でやるのは嫌だったので、レプリカの方を使って装着してみました。赤丸で囲んだのが「乳紐」で、青丸で囲んだ調整紐を抜き取って、鉄帽の黄丸で囲んだ鐶に結び付けます。実物の調整紐はレプリカに比べるとかなり長めです。このような用途があるので長かったのですね。

具体的な結び方は不明ですが、全体をぐるっと通すには紐が短いですし、こめかみからこめかみを結ぶ線に紐を通すと邪魔で被れなくなりますから、下図のような感じで結んでいたのではないかと推定しました。それにしても、レプリカの乳紐の位置が雑なのが非常に気になります。付けなおしをしたい。

まとめ

以上、九八式防暑帽に関する解説と、HIKISHOPのレプリカのレビューでした。

日本の夏は熱帯ではないかと思うくらい蒸し暑いです。そのため、軽くて涼しい防暑帽は夏場の軍装活動やサバイバルゲームに非常にお奨めのアイテムです。実物の防暑帽は日本でも入手は難しく、使い潰してしまうのはもったいないですから、多少の欠点はありますが、HIKISHOPのレプリカは十分価値のあるものだと思います。

脚注

  1. 被服、装具の制式規定の件」JACAR(アジア歴史資料センター)Ref.C01001143600、永存書類甲輯第1類 昭和5年(防衛省防衛研究所) ↩︎
  2. 昭和5年陸達第8号中下の通改正す」JACAR(アジア歴史資料センター)Ref.C01005254100、昭和16年7月以降 「陸普(支満亜)密綴 第9951部隊」(防衛省防衛研究所) ↩︎
  3. リントウといって、林投と書く場合もある。タコノキとも言って、台湾や沖縄の常緑の樹木。詳細は不明。 ↩︎
  4. 第2章 装備上ノ注意」JACAR(アジア歴史資料センター)Ref.C14010296300、熱地作戦に於ける給養勤務の参考 昭和13.8(防衛省防衛研究所) ↩︎
  5. 第2章 熱地被服ノ種類、性能及使用法」JACAR(アジア歴史資料センター)Ref.C14010237100、熱地被服の参考 昭和16.12(防衛省防衛研究所) ↩︎
  6. おそらく「にくざ」と読むと思われる。現在では座褥(ざにく)という言葉が残っていて、これはお坊さんの座る座布団を指す。褥はやわらかい布団や敷物のことなので、褥座は帽内装のクッションのこと。 ↩︎