以前、九八式夏衣のレプリカに関する考察の記事で、S&Grafの製品を紹介しました。生地の質感や全体のシルエットは良いのですが、あちこち残念な部分があるため、そのまま着用するのは少し憚られます。
そこで、実物から型紙を起こして改修をしてみましたので、その内容を記事にしてみます。ひたすら、糸を解いて縫い直すという地味な作業で非常に時間がかかりましたが、かなり満足のいく状態にすることができました。
実物との比較
左から実物、S&Grafのオリジナル、S&Grafの改修後です。一番目立つのは胸ポケットの蓋(外物入蓋)の形状、次に襟の形状とホックです。それから、この写真ではわかりにくいですが、腰のポケットの蓋と剣留の形もおかしいです。
胸物入蓋
以下の写真は、胸ポケット蓋の比較です。どちらも左側が実物、右側がS&Grafです。
S&Grafは、中央が尖った形状が再現できていません。蓋の布を縫い合わせている糸を全て解いた後、実物から作った型紙に沿って縫い直しています。幸い、ボタンホールはそのまま使用することができました。蓋の尖がりをあまり鋭くすると、将校用のオーダー軍衣のようになってしまいますので注意が必要です。(古参下士官を気取るなら敢えてそうするものありかも。)
腰物入蓋
以下の写真は、胸ポケット蓋の比較です。どちらも左側が実物、右側がS&Grafです。
腰のポケットの蓋の角は、もっと丸みを帯びた緩やかなカーブを描いています。これも解いて縫い直しました。ただし、並べて比べてみないとわからないと思いますので、省略してもよいかもしれません。
襟
以下の写真は、襟の比較です。どちらも下側が実物、上側がS&Grafです。
S&Grafの襟は、全体的に大きいのと、襟先の角度が緩いです。実物はもっと鋭角になっています。これも全部解いて縫い直したのですが、襟先部分は辻褄を合わせるのに苦労しました。
S&Grafのホックは大きすぎで、取り付けも生地の間に挟んであるだけできちんと固定されていません。ホックは、市販品でできるだけサイズの近いものを探して藤久のNo.3に交換しました。
剣留
以下の写真は、剣留の比較です。どちらも左側が実物、右側がS&Grafです。
御覧の通り、S&Grafの剣留は寸胴で格好が悪いです。そして太いので、剣差に通そうとするとうまく通せなくてクシャっとなります。
剣留は、一旦取り外して形状を整え、再度縫い直しました。
おわりに
以上でS&Grafの九八式夏衣の改修は完了です。本当は、ポケットの縫い目の位置などもおかしかったのですが、それを直そうとすると服を全て解いて布にするくらいやらないと直せそうになかったので断念しました。横に並べてじっくり観察しないと気付かないような違いですので。
今回、ミシンを持っていなかったので全て手縫いで行ったため、恐ろしいくらい時間がかかりました。
正直なところ、わざわざここまで手を掛ける必要があるのかというとやや疑問で、それであれば状態の良い実物を探せばよいかもしれません。自分の身体に合ったサイズの実物が手に入りにくい場合や、ゲームなどで気兼ねなく使い潰せる形の良い九八式が入手したい場合には悪くない選択肢だと思います。