昭五式水筒は日本陸軍の下士官兵が使用した水筒で、当時の一次史料には「新式水筒」と記載されています。徳利型の旧式水筒が0.6リットルの容量であるのに対し、昭五式水筒は1リットル入るようになっています。
口栓(こうせん)と釣紐(つりひも)の違いで、甲、乙、丙と呼んだり、伊号、呂号、波号と呼んだりして区別するというようなお話を聞きますが、それらの表現について明確に述べているオリジナルの史料を見つけられていません。
昭五式水筒の細かな仕様の変更は、資源省力化や物資不足の影響によるものと考えられます。恐らく、現場ではそれらの細かな違いを一々識別していなかったのではないかと思います。
本稿では、私の持っているいくつかの昭五式水筒をお見せしながら細部の変遷を紹介したいと思います。それぞれの水筒の形状から「初期型」「中期型」などと呼称していますが、あくまで識別のために私が便宜的につけたものであることをお断りしておきます。
初期型
まずは、制定された当初のものです。今回の水筒を含め、昭和5年に制定されたものはこちらの「被服、装具の制式規定の件」1に詳細があります。図が多用されていますので、パラパラ眺めるだけでも面白い史料です。
制定された当初の仕様では、口栓は口締紐革で止められており、釣紐には鉄製のバックルが使われています。口栓は、木製のものとコルクのものがあります。
以下はHIKISHOPのレプリカで、水筒筒(すいとうつつ)は自分で再塗装しています。まだ実物を持っていないころに塗ったので微妙な色をしています。釣紐のバックルは、実物は錆止めプライマーのようなものが塗られているため、もうちょっとつや消しの落ち着いた色のはずだと思います。HIKISHOPのバックルは少し赤みが強い気がします。
以下は、実物の水筒紐です。実はかなり凝った作りになっていて、1枚目の写真に示したように、それぞれの紐の太さが少し異なります。HIKISHOPの水筒紐だと、全部25mmの紐で作られているので、実はバックル類が実物より大きいのです。
保存状態が悪いものは、バックルの錆によって紐まで腐食して切れていたりします。そのため、状態の良い初期型は珍しいと思います。私の釣紐は、一部腐食が進んでいるところもありますが、オリジナルのプライマーが残っている部分もあります。
このままだと、そのうち紐まで腐食してしまいそうですので、一度全てバラしてバックルの錆取りをし、腐食してしまっている部品は作り直そうかと考えています。
以下は水筒筒の比較で、1枚目がHIKISHOPで2枚目が実物です。3枚目は他の実物も一緒に並べてみました。こうやって比べるとそれぞれ形状が少しずつ異なっていて、実物の水筒筒の形もバリエーションがあったことがわかります。
因みに、HIKISHOPの方は真ん中あたりをエアガンで撃たれて凹んでいます。撃たれると簡単に凹むので、サバイバルゲームの時は絶対にレプリカを使った方が良いです。
中期型
次に紹介するタイプは、口締紐革がなくなって綿の紐で口栓を止めるようになっています。この改正は昭和16年の11月2に行われたことが史料に残っています。この史料によると、口締紐革の代わりに綿製平打紐とし、尾錠と小角釻(しょうかくかん)を使わなくてもよいとあります。
以下の実物は口栓がゴム製になっていますが、これよりも簡略が進んだ釣紐でも口栓が木製やコルクの物も見かけますので、口栓は在庫があるものを使ったのでしょう。
釣紐は、バックルがアルミ製に変わりました。また細かいところですが、紐の幅がすべて22mmに統一されています。
後期型
更に省力化が進んだのがこちら。釣紐から金属がなくなりました。
末期型
実物を持っていないためお見せできませんが、釣紐が簡略化されて、水筒筒を釣紐で十字に結んだような形状のものがあります。Amazonや楽天で昭五式水筒を探すとこれのレプリカが出てくるのですが、紐やバックルも現代品のような感じで違和感を覚えます。この末期型は使えるシチュエーションも限られますし、レプリカで水筒を購入する場合はHIKISHOPかS&Grafのものがお奨めです。
再生水筒
こちらは、私の祖父が使用していたものです。祖父は1945年頃に19歳で招集され、本土で訓練中に戦争が終わりました。
この水筒は、徳利型の旧型水筒に似ているのですが、よく見ると少し形状が異なります。民間用水筒か何かを流用しているのかもしれません。水筒紐は、昭五式水筒の初期型のものを改造して作られています。よく見るとロの字型に糸が縫われていた跡が残っています。最末期になると、このような規格外のものも使用されたようです。
防寒水筒覆
水筒つながりで、防寒水筒覆も紹介しておきます。ちなみに、後期型として紹介した水筒は、この防寒水筒覆を購入したときに中に入っていました。
防寒水筒覆の内側は、毛皮になっているタイプもありますが、私の物は真綿になっています。経年の汚れはありますが、破れ等もなく状態は良いです。
まとめ
以上、大まかにですが昭五式水筒の分類でした。意図的に買い揃えたわけではないですが、気が付いたらいろんなバリエーションがありましたので、紹介してみました。
最近は、状態の良い水筒は値段も上がってきていて、ヤフオクでも5,000円を超えてきたりします。水筒筒だけとか、釣紐だけだと安く出ていたりもしますので、そういうものもねらい目です。コレクションとしては未使用新品が良いですが、身に着けて撮影するなら、使い込まれてボロボロの方が雰囲気が出たりします。
エアガンで撃たれるとすぐに凹むので、サバゲーの際はレプリカがおすすめです。細部について言い出すとキリがないですが、ゲームで使用するならHIKISHOPやS&Grafで十分かと。
ただし、これらのレプリカは口締紐革がペラペラの合皮でできているので交換がおすすめです。お手軽にディテールアップするなら、2~3mmくらいの厚さ革の端切れを買ってきて、レプリカの口締紐革から型取りして作成すると良いと思います。
実は、レプリカの口締紐革はちょっと変な形をしていて…。ということで、この口締紐革はヤフオクで出品していますので、少し宣伝しておきます。実物から型を取って厚みや穴の形もきちんと再現したのですが、思ったほど売れなかったのであまりたくさんは作っていません。売れたら少し補充というようなことをしていますので、リストにない場合はXなどからリクエストをいただければと思います。
脚注
- 「被服、装具の制式規定の件」JACAR(アジア歴史資料センター)Ref.C01001143600、永存書類甲輯第1類 昭和5年(防衛省防衛研究所) ↩︎
- 「兵務課 昭和5年陸達第8号中改正の件」JACAR(アジア歴史資料センター)Ref.C08070711200、昭和16年 陸達綴 記室(防衛省防衛研究所) ↩︎